ごぶごぶごぶの日記

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阿修羅がごとく

向田邦子のノベライズ版「阿修羅のごとく」です。テレビドラマ創世記の金字塔と位置付けられる名作ですが、これまでドラマを見たことも小説を読んだこともなく、向田作品自体が世代ではないので「時間ですよ」や「寺内寛太郎一家」の再放送を遠くから眺めたことはあっても彼女の作品に正面から触れたことがなかった。
ドラマ放映は1979年だが、小説化は1999年。放送後20年後に小説化されたもの。らしい。しかし向田さんは脚本家なので小説というよりドラマの台本を読んでるようで、小説的な心理描写はほぼ無く、セリフや情景描写によってその人物の心を読者に想像させる仕組みなのが、小説でありながらそうではない印象が強かった。「ト書き」的な手法を多用する小説なので映像が浮かんでくる特殊な文体の小説でした。とても読みやすいです。こんな小説もあるのだと驚きもありました。
通常の小説は時間軸が行ったり来たりするのが常套だけど、脚本的小説なので順を追った展開が理解をしやすく、登場人物が増え物語が幾重に重なろうが、その複雑な展開に付いていけなくなることはありませんでした。個人的に人物がたくさん出てくる小説は読みにくくて嫌ですがその辺りが脚本的なので問題ないのでしょう。
内容的なことは書かないですが男女の修羅場的な場面が多く描かれている作品。現代の男女間の価値観とはまるで違う世界がこの国の日常の中には当然のごとくあったのですね。ちょっと考えられない部分もあるが。憧れもあります。羨ましい。
現代は昭和を回顧する「三丁目の夕日」的なノスタルジー作品が数多くヒットする時代ですが、向田作品は回顧録ではなく、その時代に書かれたその時代の作品なので優しい視線で過去を懐かしむような甘酸っぱい物語ではないです。あの時代はハードですね。今よりずっと殺伐としてるが生々しく生きる本能的な人間が平然と存在し、男は男。女は女。的なその時代の生き方を示してくれている。ようだ。先に羨ましいって書いたけど今の方が平和なんだな。でもな・・・。的な思いもあります。
あと10円寿司とか出てくるんですよね。面白いです。現代の100円回転寿司みたいなものだが、70年代は物価が1/10であり、その貨幣価値は90年代以降の失われた30年までの価値であり、70年代から90年代初頭までに円の価値が10倍になったってことを示しています。物にもよりますがね。日本経済の凄まじい勢いを感じます。そんなイケイケだった時代が背景にあることにも注視すると違った見方が現れもする。
それで、肝心の感想ですが、かなり面白かったです。向田作品はドラマが本丸なのでそっちも見てみたいですね。

#向田邦子

#阿修羅のごとく

 

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